『「維新革命」への道』苅部直2017-11-24

2017-11-24 當山日出夫(とうやまひでお)

苅部直.『「維新革命」への道ー「文明」を求めた十九世紀日本ー』(新潮選書).新潮社.2017
http://www.shinchosha.co.jp/book/603803/

全部で11の章からなるが、1章から8章までが『考える人』に連載に加筆したもの。9章から11章までは、書き下ろし。そのせいか、連載部分とその後の部分で、随分と論調が異なる。

本書のサブタイトル「「文明」を求めた十九世紀日本」が、『考える人』の連載部分にはよくあてはまる。

一般に、中学・高校などで習う歴史の知識としては、明治維新によって日本は文明開化の道を歩みはじめ、近代国家を建設していった、ということである。それがまったく嘘ではないにしても、いくぶんの問題のある歴史観であることは、すこし歴史にかかわる勉強をすればわかる。

明治になるまえから、江戸時代から、すでに日本においては、近代的な社会の諸制度、思想、文化とでもいうべきものがあった、というのがひとつ。

それから、明治になったからといって、すぐに全面的に近代社会になったのではなく、前近代的な要素を多分にふくんでいた社会であった、ということがひとつ。

この本は、このうちの前者……江戸時代のうちに、すでに日本では、近代的とでもいうべき、各種の要因が芽生え始めていた、ということを、論じている。例えば、本居宣長に「進歩」の思想を見いだしたりしている。

それと、この本の特に書き下ろし部分でのべてあることは、「文明」「開化」とは、いったい何であったかの考察である。その当時の資料、史料をみながら、明治期に生きた人びとにとって、明治維新によっておこった社会の変革がどのように映じていたかを、述べてある。

これは、この本のはじめの方でのべてあること……明治維新というが、これは、「復古」なのか、「革命」なのか、という論点の提示。新しい日本の建設が、なぜ、「王政復古」という復古的な制度としてスタートしたのか。そして、なぜ、「維新」という語が選択されてきたのかの考察。

本書の内容は、ざっと以上のようになるだろうか。

近世から明治にかけての、特に、近世後期の社会の制度、学問、思想のありかたを手際よく整理してある。明治維新の以前に、江戸時代において、すでに近代につながる様々な萌芽が見いだせる。これ自体は、特に目新しいものではないと思うが、この本のような形で整理してあると、説得力のあるものとして読める。

ただ、後半の9章~11章が、どうも堅苦しい。雑誌連載をもとにしたものではないせいか、いかにも生硬な議論という印象がある。(私の読んだ印象として、結局、この本は明治維新について、何をいいたかったのか判然としなかった。)

が、ともあれ、明治維新ということについて、江戸時代からの流れで考えるとう視点と、その明治維新の時代にあって、人びとはどのようにその出来事をとらえていたのか、という視点、この二つの観点が重要であることは、理解できたかと思う。

ところで、来年のNHKの大河ドラマは、西郷隆盛が主人公である。明治維新関係の書物がいろいろと出ることになるだろうと思う。テレビをみながら、いろいろと気になる本を読んでいきたいと思っている。